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広島高等裁判所松江支部 昭和54年(ネ)50号 判決 1980年4月16日

控訴人

右両名訴訟代理人

山枡博

被控訴人

右訴訟代理人

君野駿平

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人甲に対し金二二九万六五八一円、同乙に対し金二九五万八八六六円及び右各金員に対する昭和四五年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一事故の発生

昭和四四年九月二七日午後九時頃本件浴場で入浴中の控訴人乙が意識を失い、控訴人らの長女幸恵(当時生後九か月)が間もなく死亡するという事故が発生したこと、右事故の原因は本件浴場に一酸化炭素が異常発生したためであることは当事者間に争いがない。

二被控訴人の責任

本件浴場は被控訴人がアパートの居住者の入浴のために設置管理していたものであることは当事者間に争いがなく、被控訴人がその所有者であることは被控訴人が明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。そして、<証拠>によれば、本件浴場は、木造平屋建の一棟の建物を三分した中央に位置し、入口の板戸を開けて入るとコンクリート製土間にプロパンガス用風呂釜が置いてあり、その隣が仕切りのないコンクリート製床の脱衣場で、そこからガラス戸を隔てて浴室となつており、浴室にはガラス窓があること、風呂釜は浴室との間をモルタル壁で隔てられた右コンクリート製土間の上に置かれ、土間には固定されていなかつたこと、浴室の床に固定されたタイル張り浴槽から右モルタル壁を抜けて直径約五センチメートルの金属製パイプ二本が土間に出ており、これに対応する風呂釜のパイプと右壁ぎわにおいて長さ約二二センチメートルのビニール系の合成樹脂製パイプで連結され、各接続部は留め金で固定されていたこと、風呂釜はフジカ熱器株式会社製造のフジカファミリーガス風呂釜(FGB―一二〇五E型)であつたが、風呂釜の本体の上部に取り付けられるべき遮熱板がその下部に取り付けられていたため、バーナーと遮熱板との間隔が著しく狭くなつていて、プロパンガスの正常な燃焼が困難な状態であつたこと、このため風呂釜使用時に一酸化炭素が異常発生して本件事故になつたこと、浴室の天井に換気孔が設けられていたほかには本件浴場に換気設備はなく、風呂釜の排気ガスを屋外に排出する装置も設けられていなかつたが、風呂釜の遮熱板が正常に取り付けられていれば、入口の板戸、脱衣場と浴室との間のガラス戸、浴室のガラス窓を全部閉じた状態でメインバーナーを燃焼させても、発生する一酸化炭素によつて重篤な中毒症状を呈するようなことはないことが認められ(風呂釜の設置場所及び本件浴場に設置された風呂釜の遮熱板がその本体に逆に取り付けられていたため、一酸化炭素が異常発生したことにより本件事故になつたことは当事者間に争いがない。)、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右に認定した事実関係によれば、本件事故は風呂釜の瑕疵によつて発生したものということができるところ、風呂釜は、土間には固定されておらず、留め金をはずせば移動可能となるけれども、それが本来予定された機能を果すべき状態(本件事故当時の状態でもある。)のもとにおいては、浴室の床に固定された浴槽とモルタル壁に設けられた穴を通ずるパイプによつて連結されているので、自らその設置場所が固定されることとなることが明らかである。民法七一七条の依拠する危険責任の観念からすれば、問題となる工作物自体が土地に定着しているか否かは「土地の工作物」であるか否かを区別するための本質的な基準ではなく、それが土地の工作物としての機能を有するか否かということこそ基準とされるべきである。この見地よりすれば、本件風呂釜は、土地の工作物であることに疑いのない浴室の一部である浴槽と一体となつて機能しているものであるから、その取り外しができると否とに拘らず、浴室あるいは浴槽の一部として土地の工作物にあたると解すべきである。

そうすると、その余の責任原因につき判断するまでもなく、被控訴人は控訴人らに対して民法七一七条により損害賠償責任を負わなければならない。

三控訴人らの損害<以下、省略>

(藤原吉備彦 前川鉄郎 瀬戸正義)

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